支那の体臭
オールド上海の通奏低音
1920年、夜の魔都
人気絶頂のさなか自殺した阮玲玉は言った。
「死ぬのは恐ろしくないけれど、人の言葉は恐ろしい 」
(ロアン・リンユィ 阮玲玉)
言葉は簡単に人を殺す。
その時、自分にとって都合の良い言葉を吐き、
いざ自分のもとへ火の粉が飛んでくると一目散に逃げ出すヒトがいるが、実際にはほとんどがそんなヒトだ。
「何があっても守ってやる」と言いながら、逃げ出すのだ。
言葉は人を救うが、人の精神を崩壊もする。
逃げ出した人間が吐いた軽はずみで無責任な言葉を、
逃げ出すこともできず取り残されて
魂が剥ぎ取られていくのをじっと耐えることしかできない身となった者は絶対に忘れない。
もしあなたが、そんなの言ったことすら忘れても大丈夫。
その時はあなたの首元に後ろから腕を回しそっとキスをして、
思いっきり噛みちぎってあげる。
何が起こったかわからず、ただ呆然と血を流し横たわるあなたに、
優しく笑いかけてあげる。
そしてもう一度キスをしてあげる。
私はやさしいの。
だって、あなたのその無責任な言葉が、何度も私を救ったんだもの。
だから、私はやさしいの。
パイプの小穴、
言うに言われないどっしりとした奥ゆかしい雰囲気の何か。
何ひとつ、豊かな気持ちのそそらないものはない。
金ができたり地位ができたりすると、
何処とはなしに誰に進められた問いうことなく、やはり
世間全体からの雰囲気からして、阿片の煙管が惹きつけられてくる。
(後藤朝太郎)